所得による格差なく、すべての人にファッションの喜びをー株式会社タカハシインタビュー

所得による格差なく、すべての人にファッションの喜びをー株式会社タカハシインタビュー

「衣料品を日本一安く販売すること」を理念として掲げ、所得による格差なく、ファッションを選ぶ喜びを提供することに取り組む株式会社タカハシ。1954年から続く衣料品店の3代目として、時代の変化にあわせて自社の存在意義を追及する姿勢や、オフプライスストアにかける情熱について、代表取締役社長の髙橋さまにお話を伺いました。

▼インタビュイープロフィール
株式会社タカハシ 代表取締役社長
髙橋 千佳司(たかはし・ちかし)さま

▼株式会社タカハシとは?

流通段階にあるシーズンオフ商品、過剰在庫、サイズや色の偏りといった、いわゆる訳あり商品を仕入れ、激安の値段で販売するオフプライスストア。

 

苦悩の末にみつけた「オフプライスストア」としての目指す姿

ーー本日はよろしくお願いいたします。私自身、昔からタカハシの店舗を利用していたので、今回お話を伺えることを楽しみにしておりました!タカハシといえば「安さ」が大きな魅力だと思います。その「安さ」にこだわる原点をまずはお聞きしたいです。

 

髙橋さま

株式会社タカハシの前身である「髙橋衣料品店」は、1954年、戦後の何もないような時代に相模原市西門の商店街で屋号を掲げました。
当時は祖父が親戚の生地問屋から仕入れをおこない、近所の方に縫製してもらうことで商売が成立していました。
   
やはり商店街の中にある生活に密着したお店なので、お客さまには当時から「安さ」が求められていたと聞いています。

ーー商店街の一角からタカハシの歴史が始まったんですね。当時から安さが求められていたとのことでしたが、そこからオフプライスストアとしてビジネスを始めたきっかけが気になります。

髙橋さま

先代である父親の代で、一度は繁盛店として地位を築くことができました。ですが大手量販店ができてからは、段々と商店街に来る人が少なくなっていって……。

 

そんな時にお客さまから「タカハシさんで安いのは店頭に出ている目玉商品だけ。店内に入ってみたら大して安くないね!」という、正直なお言葉をいただいたんです。

父親はどうやらその言葉が悔しかったようで、「それなら店中の商品を特価にしてしまおう」と店内全品が安いという状況が生まれました。

ーーある意味、意地で安さを実現したという背景には驚きました。

創業当初から時代も屋号も変わりましたが、「安さ」を実現し続ける想いに変化はあったのでしょうか。

髙橋さま

私は3代目として店を継いだので、創業者とは想いが異なるのは当たり前だと思っています。「自分が目指すものは何か」「何のためにこの会社を継いだのか」と悩む時期がありましたよ。

 

そんな迷いが晴れるきっかけとなったのが「はじめてのおつかい」というテレビ番組。

番組では、過去におつかいをした子供達はどうなっているか、成長した現在の姿を追う内容が放送されていました。

 

両親は離婚し、母親はトラック運転手に。子供たちもアルバイトをして家計を支えています。お世辞にも裕福とは言えない家族の楽しみが、年に一回の家族旅行。

旅行当日、子供たちが流行りの洋服を身に着けている姿に、職業柄目が向きました。

当たり前ですが「やはり、誰でもオシャレをしたいものなんだ」と痛感しました。

この子たちの暮らす街に、タカハシの店舗があればどんなに良かっただろうと心から思いました。私の目指す道は、この瞬間にはっきりしましたね。

ーー自社の存在意義を追及する姿勢から、髙橋さまの熱い想いを感じました。まさに、リアルな暮らしの一コマからインスピレーションを受けていたんですね。

タカハシの店舗へ行くたびに「生活に寄り添う心」をいつも感じています。

 

安さの秘密が、「捨てない」に繋がる

ーー訳あり商品を仕入れることで安さを実現しているとのことですが、オフプライスの仕組み以外にも何か秘密があるように感じます!

 

髙橋さま

秘密ですか……。

昔からやっていることですが、製造段階で出る廃棄の布をできるだけ減らす工夫が実は安さに繋がっています。

 

服を作るために使用する反物は、あらかじめ幅が決まっていますよね。それを型通りに手作業で切り抜いていくのですが、「いかに使える生地を余らせるか」が職人の腕の見せ所。

型をうまく組み合わせてなるべく生地を余らせれば、その余った生地を再利用して新しい商品を生産できるというわけです!

エコですし、言い換えると「OFF」しているとも言えますよね。

 

 

ーー製造の段階から、すでに工夫が施されているんですね。アパレルは廃棄が多くなってしまう印象がありましたが、「捨てない」ことも意識された大変サステナブルな取り組みだと感じました。

 

髙橋さま

ただ、今はさすがに手作業ではありません(笑)

コンピューターが自動計算して、自然に最大限の「OFF」を実現してくれるのでありがたいですよ。

 

サステナブルな取り組みに関してさらにご紹介させていただくと、服を発注する際、当初の予定枚数を超えて生産された場合でも、すべて買い取るようにしています。

「10万枚きっちり生産してほしい、それ以上は買い取りができません」というような形で依頼をするアパレルショップがほとんどですが、タカハシでは生産過剰になった商品も買い取ることで廃棄を防いでいます。 

ーー廃棄をなくすことで、生産業者にも地球にも優しい「OFF」を実現しているんですね。

髙橋さま

そう言っていただけると嬉しいです。

アパレル業界はスタイリッシュさを重視する傾向にあるため、生産過程で余った素材を再利用することには、まだまだ抵抗があるようです。

 

一方で、タカハシでは余った生地を積極的に再利用して新たな商品を作るので、廃棄がほとんど出ません。同じ商品であっても「色が異なれば生地も違う」ということもあります。

デメリットとしては、同じ生地は二度と入ってこないので、全く同じものは追加生産できないということですかね!

 

ーーお客さまにとっては、同じ形の商品であっても自分の好きな生地を選ぶ楽しさに繋がりそうです!「同じものはもう手に入らないかも」という特別感が、さらに購買意欲を掻き立てますね。タカハシユーザーとして、秘密を知れたようで嬉しいです。

 

社員とともに成長した先に、描く未来

ーーロマンやビジョンを掲げ、数年先の近い将来まで細かに夢を描いている姿が印象的でした。常に少し先の未来を想像し、社内で共有する文化があるのでしょうか。

 

髙橋さま

実は、ビジョンを高々と掲げるのが、とても恥ずかしいタイプです。
それでも、「経営者としてこんなこともできないでどうする!」という思いで、ホームページにこっそり掲載をはじめました。

 

それをたまたま見つけた社員が、「髙橋社長がこんなこと言ってるぞ」と発信を始め、いつの間にか社内でも浸透していったかたちです。

ーー社員が「自分ごと」として会社の方針を発信するのは決して当たり前にできることではありませんよね。ビジョンでも育成について触れられていますが、やはり社員教育やコミュニケーションを大切にしたいという想いがあるのでしょうか。

髙橋さま

「私はひとりでは何もできない」と常々感じています。

冒頭でもお話しした通り、私は3代目として会社を継いだだけなので特別なカリスマ性があるわけではありません。だからこそ、社員とともに成長していきたいという想いが強いです。

 

研修にも積極的に参加し、社員一人ひとりの顔や名前だけでなく、趣味や「何に喜びを感じるのか」まで知ることができるように心がけています。

ーー「共に成長していきたい」という髙橋さまの想いが、社員の皆さんに良い影響を与えているんですね。店長研修もかなり頻繁におこなわれているようで驚きました。

髙橋さま

「店長を採用した覚えはない、マネジメントをする人間を採用している」と店長たちにいつも伝えています。これは、「今」だけでなく、未来のキャリアも見据えた育成です。

 

新卒3年目の社員にフリーマーケットの開催を任せたこともあります。

立地の選定、商品構成、会計オペレーションもすべて自分たちで考えてもらいました。

店舗にいれば自然にお客さまが来店してくれますが、これは当たり前ではありません。

「顧客がいない場所で、どうやってお客さまを呼び込むか」

そんな商売の原点にある意識を、従業員にも忘れずに持っていてほしいです。

ーー今回のインタビューテーマである「OFF」という言葉を先ほども使っていただきましたが、髙橋さまにとってOFFとはどのようなものでしょうか。

髙橋さま

ちょっとした心の余裕、ですかね。

新しく買った洋服をあてながら、自宅で鏡を眺める瞬間に心の余裕―つまりOFFを感じませんか?

 

お財布事情を気にせず、我慢しないで好きなだけ買い物ができるタカハシは、お客さまにOFFを提供できていると感じています。

価格が安いので、普段使わないような色に挑戦できるのも嬉しいですよね!

ーー新しい洋服を買った後のワクワクする気持ちは、何物にも代えがたいですね。これからタカハシ様はどのような未来を描いているのでしょうか。

髙橋さま

チェーン展開をしていくことで、必要とする方のお近くにタカハシの店舗を作っていきたいです。ある方から「所得格差によって、生活が楽しめない人がいるのは不平等だと思う」という意見を聞き、もっともだと感じました。

 

タカハシを通して、所得が少ない方でも自由にライフスタイルが選べる未来をつくりたいです。